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悪魔と野犬ノ仔 15話

「ミナ。散歩、行くぞ」
「うんッ」
 母犬に会わせると言ってから大分日にちが経っていた。水無月はその間一言も催促もせず待っていた。
 家にあった残り物やパン等を適当に纏め、子犬を抱えて二人で暗い山に向かった。
 いつの間にか真夏になっていたようで、べっとりと肌に貼り着く様な湿気を含んだ空気が大きく流れていた。小さな虫たちは大量に鳴き散らし、その大合唱は二人の耳を劈くようだった。会話は自然と声を張り上げるようになった。
 母犬が今夜来るという保証はない。勘だった。
 だだっ広い野原の見える草むらに着くと、二人はただジッと待った。三十分程その場で待っていたが、来たのは狸くらいだった。
 満月に近い待宵月は元気に黄色く光っていた。辺りはとてもよく見える。
「お前、遠吠えとかできねぇの?」
「トオボエ?」
 要は携帯を取り出すと犬の遠吠えの動画を開いた。その声を聞いた子犬が反応して一丁前に下手クソな遠吠えをした。それに釣られて水無月も高い声を発した。高く透き通るような水無月の声は山の向こうまで響くように飛んで行った。何回か続けていると、あちらこちらの山々からも遠吠えが響いてきた。
「ははっ……すげぇな。ほら、子犬も頑張れ。ウーじゃない、オーだよ」
「ウゥーっ」
 子犬は目を閉じ、耳を後ろへ倒して小さな口を三角にして一生懸命遠吠えを続ける。
「音痴」
 要が呟いた時だった。草むらから大きな犬が顔を出した。
 水無月と子犬が遠吠えを瞬時に止めて身構えた。
「来たか」
 要は立ち上がってゆっくりと犬の方へ歩き出し手を差し出した。すると犬は低い姿勢で草むらから出て、差し出された要の手の匂いを嗅ぎ目線を何となく逸らしリラックスしたように舌を出して息をし出した。
 水無月の方を振り向くと、固まった様な表情だったが既にコミュニケーションを取り始めている雰囲気が人間のものとは違っていた。
 草むらからピョンピョンと沢山の子犬たちが飛び出し母犬にじゃれ出した。その姿を見て興奮した要たちの子犬も無邪気に混ざって行った。
 水無月の表情が人に戻った。そして困惑しながら何か考えたように固まり、そして口を開いた。
「お……お母さんっ」
 要は少し驚いたように切れ長の瞳を見開いた。
「あのね、ぼく、今要兄ちゃんたちと暮らしているんだよっ」

(コイツ……母犬に説明し出した……)

 母犬は目線を外したままジッと水無月の発する音を聴いていた。
「ミナ。このお母さんには言葉は通じないだろ」
「あっ」
「何してんだ……恥ずかしがってないでこっちに来い」
 水無月が恐る恐る近づくと、母犬が一瞬チラリと下から水無月を見た。
 水無月はスッと四つん這いになると頭を低くして遠巻きから母犬に近寄った。そして鼻先を母犬の顔に近づけると母犬もそれに応えるように鼻先を向けてきた。ひとしきり互いの匂いを嗅ぐ事で情報を交換しているようだった。
 本当に本人なのか、健康状態は良いのか、そんなものを確認し終えた時、水無月は急に飛び上がった。
「おいっ」
 驚いた要など無視して、水無月は大きく口を開けて激しく息をしながら母犬にじゃれつき始めた。母犬の方も嬉しそうに前足で水無月を抱え込む。そして互いに甘噛みをしながらいつの間にか野原の方へ走りだしていた。
 子犬達もそれに続いて駆けだすのを見て、要はゆっくりと立ち上がって草原へ向かった。
 何も無い野原は月明かりでとても明るく照らされていた。
 転げ回る水無月に笑い声はなく、それでも全身で嬉しいと言っているのが見てとれた。
 動物たちの影が草原を広く駆け回る。まるで人間立ち入り禁止の世界に来たみたいだった。要は穏やかな気持ちでその光景を見ていた。
 暫くそうしているうちに息の上がった水無月が要の所へ戻って来た。
 要は汗を掻いて舌を出している水無月にペットボトルの水を渡し、母犬には持ってきたプラスチックの器に水を分けてやった。母犬は夢中でその水をピチャピチャと音を立てながら全て飲み干した。
「よく走るなぁ……見てるだけで疲れた」
 要は水の空いた器に持って来た食糧を乗せて母犬に食べさせ、自分はそこに寝転んだ。
 水無月は何も言わず要の横に沿うようにして寝転んだ。今の水無月には言葉は邪魔だったのかもしれない。要は水無月の頭に手を置いた。
 餌を食べ終わった母犬は一息つくように要の足下で寝転んだ。そこにまだまだ元気な子犬達が駆け寄り母犬と要の上によじ登って来た。
 母犬はされるがままになり、要は子犬たちを空いた方の手でヒラヒラと遊んでやった。
 暫く言葉も発さず、同じ空間と時間を共有していた。ふと時計を見ると既に夜中になっていた。




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00:00 | 悪魔と野犬ノ仔 | comments (4) | trackbacks (0) | edit | page top↑
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コメント

Cさま
おおおおCさま!!
お久し振りです!!

秘コメではなかったのですがコソッと、と言う事でしたので
一応秘コメ扱いにさせて頂きますね^^

無事に生存確認が取れて良かったです!!(笑)
私も生きてます!(笑)
( ´∀`)人(´∀` )
お忙しいでしょうに読んで下さってありがとうございます(涙


はい、ミナちん、完全犬化の巻、です(笑)

要くんの真意は未だ謎に包まれておりますが、
なんとCさまの見解では実は優し過ぎるのかもという意見。
新しいですね!

あ、現れて下さるのも大歓迎ですので♪
いつでもぷらっと途中下車して下さいませ^^

コメントどうもありがとうございましたe-415
桔梗.Dさん | 2013/05/27 22:17 | URL [編集] | page top↑
けいったんさま
> 本来 動物は、本性を 鋭い嗅覚で嗅ぎ取り 本能を体全体で感じ取モノ。
> そこには 嘘偽りで飾られた言葉も存在しない。
> しかし 人間は 良きにつけ悪しきにつけ 言葉を用いて 生きる術を得ているモノ。

> 母犬と水無月を見ていると これ以上の純粋な関係は無いと思えますね。

そうですね。本当そう思います。
人は言葉を使ったり表や裏があって、それはそれで面白みや感動もあるけど
きっと要には読み取りづらいのかもしれません。
母犬と水無月の関係は純粋なものしかなくて、それが要に安心感を与えているんだと思います。
(*´∀`*)
何故そういう思考回路になったのか、少しずつ紐が解かれていくといいなと…。


> 要も 媚びや毒が蔓延している この世界に疲れ 母犬と水無月のような 純粋な世界に癒しと憧れを抱いているのかもしれませんね。
> 『悪魔の仔』でも…(▼∀▼)ニヤリッ♪
>
> 朝から 小難しそうなコメを書いてしまいました!
> (〃_ 〃)ゞ ポリポリ...byebye☆


いえいえ有難いですッ
小難しいものも大歓迎です(´∀`*)ウフフ
ありがとうございます♪

コメントどうもありがとうございましたe-415
桔梗.Dさん | 2013/05/27 22:11 | URL [編集] | page top↑
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
さん | 2013/05/27 10:24 | URL [編集] | page top↑
本来 動物は、本性を 鋭い嗅覚で嗅ぎ取り 本能を体全体で感じ取モノ。
そこには 嘘偽りで飾られた言葉も存在しない。
しかし 人間は 良きにつけ悪しきにつけ 言葉を用いて 生きる術を得ているモノ。

母犬と水無月を見ていると これ以上の純粋な関係は無いと思えますね。

要も 媚びや毒が蔓延している この世界に疲れ 母犬と水無月のような 純粋な世界に癒しと憧れを抱いているのかもしれませんね。
『悪魔の仔』でも…(▼∀▼)ニヤリッ♪

朝から 小難しそうなコメを書いてしまいました!
(〃_ 〃)ゞ ポリポリ...byebye☆
 
けいったんさん | 2013/05/27 09:21 | URL [編集] | page top↑

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